べたべたとした汗を感じる中、夏の海岸沿いを1人原動付き自転車で颯爽と走っていた。
2019年の8月。静岡県の熱海を超え、もう少しで神奈川県に入ろうかという所にいた。
昨日はお風呂にも入れずに道の駅で野宿をして、今朝まるで千と千尋に出てくるような豪華絢爛な温泉施設で優雅な気持ちでお風呂に入った。
少しの眠気もあり、お風呂に入っている時はまるで神隠しのように自分が消えたような感覚を少し覚えた。
「やっぱり朝風呂が最高やな」
と昨日お風呂に入る勇気のなかった自分を否定し、今の自分を肯定するために、周りの人たちには聞こえないであろう心の中でそう叫んだ。
そもそも、なぜこんなことをしているのか、それは昨年2018年の出来事がきっかけとなっていた。
2018年。僕は大学生となった。
大学に入ると一人暮らしをし、勉強もそこそこにサークルに入って遊んで・・という華やかたる学生生活を想定していた。が、しかし現実と理想では全く違っていた。
一人暮らしを早々に辞め、サークルにも入れず友達もあまりできない日々。
そんなとき、この4年間で自分は一体どれだけ変わることが出来るだろう?と思った。
そして色んな本を読んだり、色んな人の話を聞いて色んなことを学ぼうと決心する。
それから自己啓発本だったり、純文学だったりをとにかく読み漁った。
そのころ歌謡曲にハマった。
歌謡曲は何故か心に染みてくる何かがあると感じた。
自分の生まれるもっと前の曲なのに何故か懐かしく思えて、哀愁ある魅力がそこにはあった。
そしてある歌の一節にこんな言葉があった。
「ああ、日本のどこかに私を待ってる人がいる」
日本のどこかに私を待っている人がいる、そんなロマンティックなフレーズに胸が熱くなり、あることを思いついた。
旅をしよう。
日本の色んな所に行って色んなことを感じ、出会い、そして学びを得よう。
そのためには車やバス、観光で行けないようなところへも行くべきだし、今しかできないような旅の手段を考えた。
小回りが利いて移動の出来る乗り物、、、原動付き自転車に決めた。
それからアルバイトをしてお金を貯めた。
そして、2019年の8月いよいよ出発した。
1日目で静岡の道の駅についた。ついた頃にはあたりはもう暗くなり始めていたので、今日はここで泊まることにした。
周りは山しかなくすごくのどかな所で、夜になると真っ暗闇に包まれる。
初めてひとりで来た場所に若干の戸惑い恐怖感を抱いた。
とりあえず、自分の今夜寝る場所を探そう。そう思い探してみると道の駅の横に休憩所のような建物があって、そこは幸いにも24時間クーラーが付いている場所だった。
8月の気温は凄く熱いので、すごく助かった。。
道の駅にはコンビニがあったので、そこでご飯とサラダを購入した。
原付に持ってきたレトルトカレーを取り出し、キャンプ用の小さな鍋をバーナーに置き、お湯を温め今晩のご飯はカレーにした。
グリーンカレーだった。
この日のために、出発前わざわざスーパーに行って1つだけ買って置いたものだった。
そのおかげで今夜の晩御飯は少しではあるが、豪華になった。
カレーを買って置いた過去の自分に感謝の気持ちを抱き、カレーを頬張った。
「辛れー!!」
おやじギャグを言うつもりはない。本当に辛かった。
食べれれるものではない程に辛い。あろうことか激辛を買っていた。
冬ならわかる。夏のこんな真夏の暑い時期に?激辛?正気か疑った。
さっきまで出発前の過去の自分を思い感謝の念を抱いていたが、この瞬間自分を猛烈に恨んだ。
それからしばらくして、温泉施設は無いのか調べていると近くになさそうということが判明した。
こんな時のためにボディーペーパーをもって来た。トイレに行って洗面台で顔を洗い、ボディーペーパーで体を拭いた。でもやっぱり気持ち悪かった。
やはり、お風呂に行こうか?そう思ったが、今日は1日中原付に乗り200キロほど進んだのでもう疲れ果て、お風呂まで行く勇気が出なかった。
トイレで歯磨きを済ませ、今夜の我が寝所へ戻るとなんだか人が増えていた。
が、気にすることなく明日の計画そしてこの無謀ともいえる旅の計画を考えよう。
・明日は朝から一旦、風呂に入る。
・沼津を超え、山道を原付で超えて昼過ぎに熱海に入る。
・熱海でお昼ご飯を食べ、夕方湘南へゆきネットカフェで泊まる。
計画はこんな感じで立てた。
明日は早いのでもう寝ようと思い、硬いベンチでカバンを枕にして眠ったが貴重品を枕の下に入れていたので怖くて眠れなかった。
パッと眼が覚めると、なんだか蒸し暑い。
そして声がする。
ハッと起きて周りを見ると、寝るときにはいなかったがおじさんが3、4人増えていた。
そしてあたりは異様に臭い。
これでは、寝れたモノではない。暑くてもテントで寝た方がましだ。
ベンチの先にカバンを置いて、その向こうに自販機があり、自販機の横にゴミ箱があった。そのゴミ箱の上にコンセントがあり、ごみ箱の上において携帯を充電していたので、取ろうと思った。
そして床を見た。
「うあああああああああ」
さすが夜の建物の中の自動販売機。
自分の寝ていたベンチの下の床には、小さなゴキブリや変な虫がいっぱいいた。
そして周りにはホームレスのおじさんらしき人達。
実に疲れた。今までに経験のしたことのないことが1日に沢山降りかかった。
この旅はすごくなりそう。
そう思わざるを得ない、旅の幕開けとなった。。。
僕は一体、この旅で何を得、何を学び、そしてどう変われるのだろうか?
旅の物語はまだまだつづいてゆく。。